着物元年

忙しい年末のある日、突然「着物を着よう!」と思い立ちました。
二十歳の娘が成人式に振袖を着ることになったのがそもそものきっかけです。
振袖自体は手持ちのものを利用することになったものの、いまどき風の小物集めに呉服屋をハシゴし、自然と人との会話も着物の話題に。自分の中で「着物」というキーワードがどんどん膨らみ、気づいたときには、まるで波が押し寄せるかのように、「着物を着たい!!」という気持ちでいっぱいになっていました。

でも・・・。
半世紀近い人生の中で、着物経験はごくわずか。
それでもまだ若い頃は成人式の振袖や卒業式の袴、結婚式の打ち掛けなど着るチャンスがありましたが、結婚してからの四半世紀は全く着物とは無縁でしたので、着方が分からない。

それどころか、着物を着るのに何が必要なのかすら、分からない。
着物用語も分からない。伊達締めと帯締めの区別もつかない。
ネットで必要なものを調べ、たんすの引き出しをかき回してみると、着物は何枚もあるのに合わせる帯がない。小物もあったりなかったり。

それでも着たくて着たくてたまらない。それも「いつか」じゃなくて「今すぐ」。
なのでありあわせの着物や帯で、You Tubeの動画を見ながら、12月のある晩、四苦八苦。とりあえず着てみました。
振袖用長襦袢の長い袂を小紋の袖に無理やり詰め込み、振袖用の太い豪華な帯締めを浴衣用のペラペラな半幅帯に締めました。

調べモノに要した時間、探し物に要した時間を含めると、なんと約7時間!
襟や帯が難しくて、うまくいかなくて、何度もめげそうになりながら、それでも朝の4時までかかって最後まで着ました。

すんごいヘンテコ。すんごいヘタクソ。
でも嬉しかったです。本当に嬉しかった。
もう嬉しくて嬉しくて、口元がゆるみっぱなし。寝不足でフラフラになりながらも一人でニタニタしてました。


その翌日も、そのまた翌日も、毎日着ました。
毎日毎日着ると、毎日毎日、少しずつ上達する。
でも、毎日毎日新たな問題点が次から次へと見えてくる。
そのたびにめげそうになり、実際ちょっと泣いてから、気を取り直してネットで対策を調べました。

足りないものは実家に帰って調達。
それでも足りないものは少しずつ買い足しました。
長襦袢に衣文抜きを縫いつけ、半襟をつけ、タオルで補正を作ったり。
2、3週間かけて今やっと、なんとか一通り揃ったところです。


そうしてなんとか着られるようになると、次は着物で出かけたくなる。
でも羽織りモノを持っていないので冬は無理かな、と諦めていたところ、リサイクルショップで腕の長いわたしにピッタリな道行コートを発見。それからというもの、どうしても正月に着て行きたい!という思いがとめられなくなりました。




でも、その思い切りは、着付け以上に困難でした。

いい年をして、こんなヘタクソな着付けで人前に出て、人から笑われないだろうか。
いい年をして、TPOも良くわからない。誰かに叱られたり誹られたりしないだろうか。
若いお嬢さんならまだしも、中年になって着物デビューなんて、一体何の真似?

そう思われるのが、怖かった。ものすごーく怖かった。
着物なんて余計なものに手を出さなければ、安全地帯にいられるのに。
洋服を着ていれば、誰にも何にも文句を言われずに済むのに、なぜわざわざリスクをおかす必要があるの?


実際「正月に着て行く」と言うと、実家の母は明らかに迷惑顔。
無理もない。TPOも分からず、着付けもままならないいい年した娘を親戚の前にさらして恥をかくのは本人以上に、母ですから。
「何を好き好んで、いまさらわざわざ着物なんか」という思いが言葉の端々から伝わってくる。
「そのうち着付けもTPOもカンペキにしてから、それから外に出るんじゃダメなの?」と言いたげ。


でも、それじゃダメなんです。
「そのうち」じゃダメ。「今」やらないと。
カンペキなんて待っていられない。

というか。
カンペキな着付け、カンペキなTPOなんて、永遠に来ない。
だからダメでもヘタでも恥さらしでも、まず外に出なくちゃ。
そう直感したんです。



だって英語だってそうでしょ?
「カンペキな英語が喋れるようになってから、喋りたい」なんて思ってたら、その日は永遠に来ない。
ダメでもヘタでも恥さらしでも、まずは喋ってみることが大事。


言葉に詰まって冷や汗かいて、恥かいて。
時には上手く言えて小躍りしたり。
そういう気持ちの浮き沈みを経験してこそ、もっと喋れるようになりたい、って思える。


なるべくたくさん発表の場、経験の場を設けることが大事。
英語や着付けに限らず、お稽古事はすべてそうなんじゃないのかな。
だから踊りでも歌でも、発表会をやるんじゃないのかな。
意欲を殺さず、また飛躍のきっかけを作るために。



幸運なことに、正月を待たずして、先日突然、「プチ発表の場」が訪れました。
母がたまたま用事で近くまで来たのです。
「じゃあ今から着物を着て会いに行く」と言ったら、少々迷惑がられましたけど。
でも諦めかけたところ「ママ、こんなチャンスを逃してどうするの?!」と娘に励まされ、急いで着て行きました。

案の定「ずいぶんとすごい着つけ」と母の目には映ったようであちこち直されましたが。でもいい勉強になりました。

そして、それ以外にも、その日に学んだことは多かった。
足袋が右足だけ小さすぎること、袖の下の腕が意外に寒いこと、歩き方を練習したほうがいいこと・・・。
全部、外に出てみなければ分からなかったことです。



そして、分かった。
新しいことを始めるって、こういうことなんだな、と。
恐れ、不安、ためらい、羞恥心・・・。
そういうのを全部乗り越えて、やっと始められるんだ、と。


何かを始めるときって、すごいエネルギーが必要。
ためらいや不安を乗り越えるための。

そして、最初の「プチ発表会」を経験した今、わたしは「始める」ことに成功したのです。






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うさぎ

Author:うさぎ
50歳にして着物を着始めた、最初の一年間の日記です。 

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